“上垣内の『ごく個人的なデザインジャーナル』”の記事一覧

『小野庄凧店』の江戸角凧と『伊勢辰』の立版古(たてばんこ)

最近竣工を迎えた物件の中に、東京下町のコンセプトホテルがある。2年前からお手伝いさせて頂いている長期の案件である。地元に親しまれる本館に続いて、元名画座映画館であった場所柄のことや、江戸三座があった猿若町も近くにあることなどから、今に残る当時のままの調度品の展示を通じて、江戸の町民文化から近代の大衆文化に至る町の魅力を旅情に落とし込んだホテルである。その中でも特に面白い物として、映画撮影用のキャメラと角凧と『立版古(たてばんこ)』がある。

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写真1:小野庄凧店の角凧

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写真2:同、奴凧

映画撮影用のキャメラはとても古い物で昭和の巨匠が使用した希少な物。経年した木製の脚立部分にはえもいわれぬオーラが漂っている。そして、角凧。壁に設置していた若い職人さんに、「あ、それこうやって糸を巻いて少し反らせて飾るんだよ」と話したら、キョトンとされてしまう。そうか、ゲイラカイトの世代どころか、凧上げしたこともない世代なのかな・・・と。周りにいたみんなに訊くと、この凧のことを皆知らず。孤立感を感じてしまったと共に、新しいものとして価値が上がる気さえしてしまった。今回の江戸凧は『小野庄凧店』さんにあつらえてもらったもの。高さ1mを超えるいかついけど少し可愛い奴凧が一番の見どころ。1920年代に小野庄司さんが始められた凧店の3代目隆史さんが営まれるお店で、昔ながらの江戸の凧が購入できる。小野さんの凧は、伝統の絵柄もありながら、早慶戦とか、『のらくろ』など昭和懐かしいモチーフもあり、小野さんの青春も感じさせつつ、色のセンスが独特。とても彩度が高い色の組み合わせだけれども変にハレーションせず、しっかりと絵面が眼に入ってくる不思議なテイスト。合成着色料的な駄菓子を思い出すノスタルジックな色合いでもある。高々と空に舞い上がる姿は、それはそれは晴々しくて愛らしいことだろうと想像する。

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写真3:小野庄凧店

そしてもう一つの目玉は『立版古』、江戸時代の飛び出す絵本的なものです。歌舞伎の舞台美術の様に遠近を二次元に描いた書き割りに、役者がそれぞれの立ち位置に立つ。いかにも長持ちしそうにないその場限りな堅紙の切り人形はペラペラで背景の建物も頼りなさげな感じ。だけどそれがなんとも可愛らしく、僕よりもっと昔の子供達なり大人が作ってご満悦する姿は、昭和で言えばプラモデル、今ならフィギュアなのかな。実際は歌舞伎に行けない人達が歌舞伎の演目の立版古を作って鑑賞していたとか。今回の立版古は江戸末期に千代紙、おもちゃ絵の版元として創業した、谷中の『いせ辰』さんにて買い求めたもの。版木は『人形の吉徳』さんから借り受けたものらしく、なるほど役者だけに顔が命だし、とガッテンしてしまった。

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写真4:立版古〈完成版〉

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写真5:立版古の見本(設計図)

立版古と江戸の凧、今の住宅には置く場所が無いものの、博多人形をガラス箱に入れて飾っていた応接室があった頃の昭和の住宅には、まだ居場所があったかもしれない。この二つの可愛らしい昔の江戸のおもちゃは、なぜか私を元気にさせてくれた。

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写真6・7:立版古、切り抜き前

本人の現代生活には色が積極的に取り入れられているとは言えない。色は元気が無いと着こなせない気がするし、ともするとリアルな自分を都市生活の中に紛れ込ませてしまいたい、姿を消したい生活者にとっては決して重宝する物でもない。そんなことから、みんな色が苦手になってしまったのかも知れません。でも昔の日本人は結構色と上手く付き合っていたよう。 身近に色があったからセンスも自然に磨かれて、ハレの色もケの色も自然としっくりきたのだろう。以前お手伝いさせて頂いたスニーカーメーカーの方も言っていた「スニーカーはコーディネートなんてしないで、物だけ見て気に入ったら買う!車と一緒だから、車と一緒に鏡見ないでしょ」って。そんな気持ちで、何かキレイな色の物を身につけてみたい気持ちが最近メキメキとある。(2020.07.15)


上垣内さん.jpg上垣内 泰輔

商業施設・展示施設の内装・展示物等の製作を行う日本屈指の会社株式会社 丹青社 のデザインセンター所属のプリンシパルクリエイティブディレクター。1988年入社。数々のインテリアデザインを担当。アパレルショップ開発やバーゼルワールドでのパビリオンデザインを手掛ける。ドイツADAM賞など、数多くのアワードを受賞し、現在ではリテール、ホスピタリティ、エキシビジョン、オフィスなど、様々な分野にて横断的にディレクションを行っている。